撮影前の準備段階をプリプロダクションという
シナリオをもらったらまずはセリフとセリフ、ト書きとト書きなどの行間を想像しながら熟読します。その際、登場人物や小道具などに色付きの鉛筆などで印をつけながら読んでいくと後からまとめるのにわかりやすくなります。 また、疑問点など気になることは余白に書いておきましょう。台本にあることはすべて把握することが仕事です。自分の知らないことはこれから取材し勉強することになります。
シナリオは設計図です。「自分が監督だったらこうしたい」「こうしたらもっと映画が豊かになる」といったアイデアを浮かべながら読んでいくことが最も重要です。後々、監督に意見を求められたり、自分から提案したりすることがよくあります。その時に意見がなければ演出部でいる意味がありませんし楽しくもありません。シナリオ自体に納得がいかなければ、書き直して提案することもあります。
香盤表とは、シーンごとに場面・内容・登場人物・小道具などをまとめて表にしたものです。
㊟香盤表の書き方は人それぞれです。やっていく中で自分にとって使い勝手がいいものに変えていきます。
参考①香盤表
左より
㊟上記の香盤表以外に、小道具の欄を充実させた小道具香盤や作品のテーマを取り扱った香盤(例えば料理がテーマの作品でシーンごとに作る料理を香盤形式にして詳細に記す)、撮影済みのシーンを朱色で消していく消し香盤など数種類の香盤を作ることも多い。
シナリオを読んでわからなかったことを取材し勉強します。 例えば、主人公が弁護士で法廷が舞台の作品ならば、図書館に行って文献を調べたり、裁判所へ傍聴にい ったり、弁護士の方に話を伺ったり、事務所に行きどんな内装なのか机の上には何があるのか?などなど調べたり、どんな仕事なのか見学させていただいたりetc.とにかく弁護士のリアルな姿を徹底的に取材します。
調べものが終わったらそれをまとめてレポートを作成しスタッフ(特に美術部…セットの参考になります)や俳優部(役作りのため)に配布します。 取材結果がシナリオと大きく違った場合は、この取材に基づいてシナリオを直す場合もあります。(映画なのであえてウソをつく場合もあります)
映画の世界観のもとになる基本的な設定を考えます。シナリオには大まかな設定だけしかない場合がほとんどなので、それを補います。設定を考えたら一覧にまとめ監督に確認します。決定したら各部に配布します。
主な設定は下記。
・登場人物の姓名や年収や家族構成、一日の仕事の流れなどのキャラクター設定
・日が変わるシーン(通称:日変わり)を確認し年代や季節、日付、時間を設定
・舞台となる場所の名前や住所や電話番号の設定(架空のもの)
通称:ロケハン
シナリオのイメージにあう場所を制作部と一緒に探します。(チーフの仕事)
決まっている俳優部とロケ場所のスケジュールがマッチするか、騒音などの周りの環境、予算やエキストラの集合のしやすさなど制作的な段取りを考慮しつつ探していきます。 いくつか有力な候補があがったら監督やカメラマンなどメインスタッフを連れてロケハンに行きます(通称:メインロケハン)。撮影場所が決まるまでこれを繰り返します。
通常は、助監督が合流した時点で主役クラスの俳優部は決まっています。 端役や子役などはキャスティングやオーディションをする場合があり、この段取りや進行を助監督が担うことがあります。
というような流れです。 一次、二次オーディションは助監督連で行い、最終オーディションだけ監督に入ってもらうパターンが多いです。
通称:総スケ
俳優部やロケ場所のスケジュール、特別な機材のレンタル日数、セットの完成の日取り、飾り替えの時間、雨天の場合など、たーーっくさんの条件を踏まえつつ、映画にとってベストな場面が撮影できるように考えてスケジュールを作ります。チーフの仕事です。
参考②総合スケジュール
通称:美打ち(美術発注・確認)
監督をはじめとするメインスタッフ、美術部、装飾部、衣裳部、メイク部などが集まり、主に美術的なことについて監督のイメージを聞いたり美術監督が提案したりして打ち合わせをします。台本の最初から最後まですべてのシーンの話をするので長時間の打ち合わせになります。この司会進行はチーフの仕事です。 次の項目で説明する衣裳打ち合わせと兼ねることもあります。
セカンドは日替わりの確認や衣裳のイメージについて質問したり、エキストラの人数について確認する場合もあります。
サードは新聞や名刺などの小道具の原稿を書き、監督のイメージに合っているか確認して美術部に発注し制作してもらいます。原稿を書くポイントはとにかく「わかりやすく」です。どのシーンで使うものか必ず明記し、参考にしたものの写真をそえたりして小道具を作る担当者にイメージを正確に伝えます。
撮影前に発注したものが完成しているか忘れずに確認しましょう。イメージと違うものが出来上がっていたり、誤字脱字がある場合は修正し新たなものを制作するよう指示を出します。特にアップになりそうな物は要注意です。
通称:衣裳打ち
監督と衣裳部・メイク部・持道具担当が集まり、衣裳、メイク、持道具に関する打ち合わせをします。
セカンドは監督のイメージの助けとなるように雑誌の切り抜きなどの資料を用意し衣裳の提案をしたり、衣裳を変えるタイミングや着数などを確認し衣裳香盤を作成します。司会進行もセカンドの仕事です。
エキストラ用に制服など特殊な衣装が大量に必要な場合は早めにそのイメージや着数を確認し衣裳部に発注します。
参考③衣裳香盤
通称:衣裳合わせ、衣小合わせ
集められた衣裳・小道具を俳優ごとに衣裳香盤に則って合わせていきます。
セカンドは各俳優事務所と調整し衣小合わせのスケジュールを作成。控室や駐車場の手配、当日の進行をします。ロケ場所によって衣裳を変えたりするので、ロケハンの写真を用意したり、俳優部に渡す資料をまとめたりもします。
決定した衣裳は写真に撮っておきます。 衣小合わせが終わったら写真付きの衣裳香盤を作り、衣裳、メイク、持道具、記録などに渡します。撮影現場で用意の漏れがないようにするため、つながりのミスがないようにするためです。
撮影までに衣裳がそろっているか確認します。
参考④写真付き衣裳香盤
カメラテスト・メイクテスト
カメラテストのモデルの手配(助監督がやる場合もある)や実際の俳優部でテストする場合にはその日のスケジュールを作り、現場の進行をします。 この際、映画で使うファンデーションや鬘、傷のメイクなどの映り方を確認するためにメイクテストを行うこともあります。 カメラテストのラッシュに立会い、映像の方向性を把握しておきます。
例えば、ピアニストの役であればその俳優はピアノが弾けるように練習しなければなりません。その段取り(先生やスタジオをおさえたりetc.)や当日の付き添いをします。セカンドが担当することが多いです。
方言を話す役ならば方言のCDを作って渡したり、高級クラブのホステス役のために本物のクラブに一緒に体験入店したり(お店を探すのも助監督の仕事です)etc.その作品によってすることは変わります。新人俳優の場合は、芝居の基礎を教え相手役となってリハーサルをすることもあります。
(「EX」とも表記します)
セカンドは、一つのシーンで何人のエキストラが必要なのか、その人々は何をしていてどんな衣裳を着ているかなど考えて、台本に則ってシーン順にエキストラ表を作ります。重要な場面のエキストラの数は監督に確認します。
エキストラ表が完成したら衣裳部やメイク部に配布し衣裳などの発注や撮影当日の段取りを確認します。また、制作部にもエキストラ表を渡し、エキストラ用のお弁当や控室の手配をお願いします。
サードはセカンドからエキストラ表をもらったら、どんな小道具を持たせようか考えて表に記入し、美術・装飾部に発注します。
総合スケジュールが出たらシーン順に作ったエキストラ表を日付順に作り替え、これも関係部署に配布します。
また、セカンドはエキストラ会社にキャストを発注したり、ボランティアエキストラ募集の文章(内容の詳細)を作成しボランティアエキストラを募ったりします。
参考⑤エキストラ表 シーン順
参考⑥エキストラ表 日付順
オフセリフ作成
台本に書かれていないが必要なセリフというのがあります。そのセリフを考え台本を作るのも演出部の仕事です。 例えば、台本のト書きに「楽し気に会話する親子」とあればこの楽し気なセリフを考えます。台本がかけたら監督に確認し俳優部、記録、録音部など各部署に配ります。
VFXがある場合
監督に確認しつつ合成シーンの香盤表を作り、関係部署に配布。必要な場合は撮影前に監督にコンテを書いてもらい、VFXチームや撮影部、美術部と合成シーンや素材の撮影の手順を相談しスケジュールに反映させたり、必要なものを美術部に発注します。
クランクイン前日などにすべてのスタッフを招集し、自己紹介や内容の打ち合わせをします。
司会進行はチーフの仕事です。